2023.10.25
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『居住用財産の買換えにかかる譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例』と『居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例』の要件などについて詳しく解説

④居住用財産の買換えにかかる譲渡損失損益通算及び繰越控除の特例と居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例

 

 

 

はじめに

 居住用財産を売った場合の5つの特例の内、3000万円特別控除の特例、所有期間10年超の場合の特例、特定の居住用財産の買換え特例についてここまで解説してきました。これらの共通点は譲渡益が出た場合、譲渡した資産の譲渡価額が買換えた資産の取得価額を上回る場合に利用したい特例となりますが、このコラムでは損をした場合、譲渡した資産の譲渡価額が買換えた資産の取得価額を下回る場合に使える特例について解説したいと思います。その特例とは 『居住用財産の買換えにかかる譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例』と『居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例』の2つになります。

 

まずは『居住用財産の買換えにかかる譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例』について解説したいと思います。

 

居住用財産の買換えにかかる譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例を受けるための要件

 居住用財産の買換えにかかる譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例を受けるための要件ですが、まず、企業と違い、個人は、土地、建物を譲渡した場合に損失が発生してしまったとしても、通常はその損失分を他の所得(給与所得・事業所得等)から控除したり、繰越して控除したりすることは出来ません。(他の所得の損失を土地、建物の譲渡益から控除することもできません。)  

 

 しかし、居住用財産の買換えにかかる譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例は特定の居住用財産の譲渡損失についてだけ、その年の他の所得から控除(損益通算)することができますし、控除しきれなかった残額のあるときは、その残額をその翌年から3年間に繰越して各年の給与、事業所得等の総所得金額(合計所得金額が3,000万円以下の年分に限る)から控除できるようになっています。この特例の適用を受けられるのは、次の要件をそなえた居住用財産の譲渡損失です。なお、その敷地の面積が500mを超える場合は、その超える部分に対応する損失は除かれます
 なお、この繰越控除は、前述の住宅ローン控除との併用が認められています。

 

 

要件の内容

 居住用財産の買換えにかかる譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例を受けるための要件についてさらに詳しく、譲渡資産と買換資産に分けて説明します。

 

 

譲渡資産

 令和5年12月31日までの間に譲渡される自己の居住の用に供する家屋またはその敷地で、その譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるもののうち、次の(1) から(4)のいずれかに該当するものであること。
(1)現に、自らが住んでいる住宅
(2)以前に自らかが住んでいた住宅で、自分が住まなくなった日から3年後の12月 31日までの間に譲渡されるもの
(3)(1)や(2)の住宅およびその敷地
(4)災害によって滅失した(1)の住宅の敷地で、その住宅が減失しなかったならば、その年の1月1日における所有期間が5年を超えている住宅の敷地
ただし、その災害があった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡されるものに限ります。

 

買換資産


①譲渡資産の譲渡をした年の前年の1月1日から翌年12月31日までの間に取得される自己の居住用に供する家屋またはその影地。
② その家屋の居住部分の床面積が50m以上であること。
③ その取得の日から取得した年の翌年の12月31日までの間に自己の居住の用に供すること、または供する見込みであること。
④ 質換資産を取得した年の12月31日において、質換資産に係る住宅借入金等(返
※期間 10年以上のローン契約等によるもの)の金額を有していること。
したものも除く)

 

譲渡損失の損益通算の計算

 その年に特定の居住用財産の譲渡の他に、土地建物の譲渡があって、その譲渡益がある場合には、その譲渡益から控除し、その次に、土地建物以外の譲渡所得、そして一時所得、その他、利子所得、配当所得(以上のうち源泉分離課税を適用したものを除く)、不動産所得、事業所得、給与所得、と雑所得から控除し、さらに山林所得、退職所得の金額から控除するようにして計算します。
 

譲渡損失の繰越控除の計算

 繰越控除が適用される譲渡資産に係る譲渡損失の金額とは、譲渡資産に係る譲渡所得の計算上生したその年の損失額のうち、上述した損益通算をしてもなお控除しきれない部分の損失とされています。
 

譲渡収入一取得費一譲渡費用=譲渡所得に係る損失額(赤字の額)
 

他の所得金額一譲渡所得に係る損失額=譲渡損失の金額(控除しきれない損失額)
 

 譲渡損失の金額(控除しきれない損失額)、繰越控除の対象となる金額です

 

 

居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例を受けるための要件

 個人が自分の住まいである土地、建物を譲渡して損失が発生した場合には、買換えをしなくても、護渡損失の金額のうち譲渡資産の住宅借入金等の残債からその譲渡資産の譲渡価額を控除した差額を限度として、他の所得との通算及び翌年以後3年間の繰越控除ができる制度です。この特例の適用を受ける場合の要件は、次のとおりです。 
 

①個人が平成16年1月1日から令和5年12月31日までの間に、その有する家屋又は土地でその年1月1日において所有期間が5年を超える居住用財産での(1)から(4)いずれかに該当するものを譲渡すること
(1)現に自ら住んでいる住宅
(2)以前に自らが住んでいた住宅で、自分が住まなくなった日から3年後の12月 31日までの間に譲渡されるもの
(3)(1)や(2)の住宅およびその敷地
(4)災害によって滅失した(1)の住宅の敷地で、その住宅が減失しなかったならば、その年の1月1日における所有期間が5年を超えている住宅の敷地

のいずれかに該当するものを譲渡すること。
②その個人がその譲渡に係る契約を締結した日の前日においてその譲渡資産に係る一定の住宅借入金等の残債を有すること。
③繰越控除する各年分の合計所得金額が3,000万円以下であること。
④譲渡先が、その個人の配偶者その他特別の関係がある者ではないこと。

 

 

特例を受けることができる損失の限度額

 この特例が適用される譲渡資産に係る譲渡損失の金額は居住用財産の買換えにかかる譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例の場合と同じですが、契約締結日の前日におけるその譲渡資産に係る住宅借入金等の残債の合計額からその譲渡資産の譲渡価額を控除した差額が限度となります。


 

居住用財産の譲渡損失の繰越控除等制度のちがい

 居生用財産を譲渡して損失が生じた場合に適用できる特例として「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除等」と「特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除等」の2つを解説してきましたが、名前は似ていますが制度の内容はかなり違いますので、比較してみましょう。
 

居住用財産の買換えの場合の譲渡損失の繰越控除等について

譲渡資産の所有期間等

譲渡した年の1月1日において所有期間等期間が5年超のもの
 

譲渡資産の住宅借入金の有無

特に制限なし

買換え要件

床面積が50m以上等の一定の要件を満たす買換資産を買換える。

10年以上の返済期間がある住宅借入金により取得すること
 

所得要件

合計所得金額が3,000万円以下であること

 

繰越控除等される金額
繰越控除等損失の全額が、他の所得との通算及び3年間の繰越控除の対象となる。

 

特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除等について

譲渡資産の所有期間等

譲渡した年の1月1日において所有期間等期間が5年超のもの

 

譲渡資産の住宅借入金の有無

譲渡契約締結日の前日において借入残高があること

 

買換え要件

買換えは要件となっていない

 

所得要件

合計所得金額が3,000万円以下であること

 

繰越控除等される金額

損失の金額のうち、「ローン残高一譲渡価額」の金額を限度として他の所得との通算及び3年間の繰越控除の対象となる。

 

 

 これらの制度の決定的な違いは、居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除等は住宅ローン等を組んだ買換えを絶対要件としているのに対して、特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除等は譲渡資産の住宅ローンの残債が譲渡価額を上回っていることが絶対要件で買換えを要件としていない点です。そのかわり、前者は損失の全額が他の所得との通算及び繰越控除の対象となるのに対して、後者は他の所得との通算及び繰越控除の対象となる金額に制限が設けられている点が大きく違います。

 

 

参考例

 Cさんは、平成10年に8,000万円で購入したマイホームを令和4年8月に3,800万円で譲渡し、賃貸住宅に住むことになりました。譲渡した自宅の減価の額は500万円で、譲渡の費用は300万円かかっています。また、譲渡した自宅の住宅借入金残高は6,300万円です。
 令和4年の給与所得が960万円(源泉徴収税額76万7,700円)、令和5年の給与所得が980万円(源泉徴収税額78万1,000円)、令和6年の給与所得が1,020万円(源泉徴収税額80万2,500円)で、その他の所得はありません。また、令和6年分の所得控除額は256万円です。


令和4年分、令和5年分、令和6年分の所得税額は
 

(1) 令和4年分の計算
①譲渡所得の計算
 3,800万円ー(8,000万円-500万円)-300万円=-4,000万円
②特例の対象となる損失の金額
6,300万円-3,800万円=2,500万円<4,000万円
したがって対象となる金額は2,500万円となります。
③損益通算
960万円一2,500万円=-1,540万円(繰越控除の対象となる譲渡損失の金額)
④よって、所得税額ゼロ→源泉徴収税額76万7,700円の全額が還付されます。

 

 

(2) 令和5年分の計算(繰越1年目)
①980万円-1,540万円=-560万円(翌年に繰り越される譲渡損失の額)(繰越控除)
②よって、所得税額ゼロ→源泉徴収税額78万1,000円の全額が還付されます。

 

(3) 令和6年分の計算(繰越2年目)
①1,020万円-560万円=460万円(繰越控除の対象となる譲渡損失の額の残額が全部控除され、ゼロとなる)
②(460万円-256万円)×10%-9万7,500円=10万6,500円
③106,500円x2.1%= 2,236円
④106,500円+2,236円=108,736円→108,700円
⑤よって、源泉徴収税額69万3,800円(= 80万2,500円-10万8,700円)が還付されます。

 

まとめ

 居住用財産を売った場合の5つの特例、3000万円特別控除の特例、所有期間10年超の場合の特例、特定の居住用財産の買換え特例、居住用財産の買換えにかかる譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例、居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例、についてここまで解説してきました。同じような言葉や聞きなれない言葉が数多くあります。難しい点や要件を見逃してしまう可能性もあります。専門家へ相談することがベストです。

これらの特例ですが、不動産の取引と密接に関係していますが、宅地建物取引士では税については素人です。また税理士ではないものが税について相談を行えば税理士法に違反してしまう可能性するございます。

専門家の税理士もしくは税務署へご相談をお願いします。

 

 


著者情報

宅地建物取引士 刈田 知彰

      (かりた ともあき)

ハイウィルでは主に不動産の仲介をさせて頂いております。刈田です。

私が不動産業界に飛び込んでから早16年が過ぎました。最初に入社した会社は新築マンション・新築戸建ての企画・開発・販売までを行う会社でした。そこで新築マンションや新築戸建てのノウハウを学び営業してきました。当時の私は何の考えもなしに、中古は「保証もないし」「リスクが高い」と中古のデメリットのみを説明する営業ばかりをしてきました。あるとき自分の間違えを受け入れ、これからの日本は新築が脚光を浴びるのではなく中古流通×性能向上リノベーションが日本の住宅市場のスタンダードになっていくと確信し、現在は中古流通×性能向上リノベーションをメインに物件のご紹介をさせて頂くようになりました。

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